昭和初期に仙台の医師、橋本敬三(1897-1993)がさまざまな民間療法を試すうち、高橋辿雄氏の正体術(整体とは異なる)にめぐり合い、創案・体系づけたもので西洋医学、東洋医学とも異なる、いわば日本医学とでもいうべき未病医学に基づく、診断、臨床法である。

操体法の初期は、正体術と類似する方法がとられ、客観的に骨格、関節の構造を診て、運動系の歪みを正す試みがなされていた。その方法は、骨格、関節の動きを二者択一的に比較対照させて分析し、辛い方から楽な方へからだを操つり、運動系の歪みを正すことによって、疾患、症状の治癒、改善をはかってきた。

その後、客観的な見方からはなれ、生体の内部感覚に基づいて、生体のフィードバック機能をより洗練させていくため、快適感覚をより重視するようになった。結果、操者の決めつけを操法から一切排除し、からだの要求感覚に委ねる臨床への対応が急速に進められてきた。また、その一方で、患者の意識を介さず、からだの無意識に直接快適感覚をききわける皮膚体壁系へのアプローチも体系化されてきている。

操体法には、他に類をみない特徴がある。それは、診断も治療も患者自身に委ねていることである。つまり、患者自身が医療者の立場に立つことで、患者本人が診断し、治療する。本来、治療とは施術者が診断し治療する行為である。操体法の場合、施術者と患者の立場が逆転している。操体法は、それ由、患者自身の自力自療が成り立つ。

なぜ、自力自療が可能なのかというと、本人にしか分からない(認識、識別できない)感覚を診断、治療の要にしているからである。感覚をからだにききわけること、ききわけた快適感覚を操つり味わうこと、これが操体法、臨床の特徴である。「ききわけること、味わうこと」これは、患者本人の責任分担であり、第三者(施術者)が直接介入することのできない診断と治療なのである。操体臨床における第三者の役割は治療に直接介入する立場ではなく、指導及びサポートしていく立場に立つだけである。